
「以前より疲れやすくなった気がする」「午後になると集中力が切れて、ぐったりしてしまう」。在宅勤務を続けているうちに、こんな感覚を覚えるようになった方は多いのではないでしょうか。
在宅勤務が普及して数年が経ちます。通勤がなくなり、時間の使い方に自由度が増した反面、知らず知らずのうちに日常の「動く機会」が激減しています。オフィス勤務時代には当たり前だった、駅の階段を上り下りする・社内を歩き回る・ランチに出かけるといった何気ない動作が、在宅では丸ごと消えてしまいます。そしてその代償は、じわじわと、しかし確実に体に現れてきます。
筋肉が衰え、血流が滞り、疲労物質が体の中にたまりやすくなる。運動不足が「疲れやすい体」を作り出しているのです。
「だからといってジムに通う時間もモチベーションもない」というのが正直なところでしょう。30〜40代のビジネスパーソンにとって、仕事・育児・家事の合間に新しい運動習慣を取り入れるのは簡単ではありません。私自身、在宅に切り替えてから半年ほどで体の重さが変わったと気づいたとき、「ジムに行かなければ」ではなく「まず座ったままできることを探そう」と発想を変えました。
この記事では、在宅勤務で運動不足になると疲れやすくなるメカニズムを丁寧に解説したうえで、「座ったままできる動き」から「デスク環境を変えて自然に動ける工夫」まで、今日から始められる対策を段階的にご紹介します。無理なく続けられる小さな一歩から始めて、在宅勤務でもスッキリ動ける体を取り戻しましょう。
在宅勤務で運動不足になると疲れやすくなる3つのメカニズム

「運動不足で疲れやすくなる」と聞くと、直感的には逆のように感じるかもしれません。「動いていないのに、なぜ疲れるの?」という疑問は自然です。しかし体の仕組みから見ると、動かないことが疲れやすさに直結する明確な理由があります。
メカニズム1:筋肉が使われないと血流が悪化し、疲労物質が滞る
筋肉、特に脚の大きな筋肉は「第二の心臓」とも呼ばれます。ふくらはぎや太ももの筋肉が収縮・弛緩を繰り返すことで、下半身の血液を心臓へ押し返すポンプ作用が生まれます。在宅勤務で長時間座り続けると、このポンプが機能しなくなります。
血流が滞ると、体の末端に酸素や栄養が届きにくくなるだけでなく、乳酸などの代謝産物(疲労物質)が体内に蓄積しやすくなります。これが「なんとなくだるい」「体が重い」という慢性的な疲労感の正体のひとつです。
血流低下は脳への酸素供給量の減少にもつながり、「集中力が続かない」「午後になると頭がぼーっとする」といった認知機能への影響も引き起こします。オフィス勤務時代には通勤という「自動的な運動」があったことを思い出すと、その差がいかに大きいかがわかります。
血流の問題は脚だけにとどまりません。肩まわりの血流が悪化すると肩こりが生まれ、肩こりによる筋緊張がさらに疲弊感を高めるという連鎖が起きます。「疲れているのに寝ても回復しない」という状態は、この悪循環が続いているサインです。
メカニズム2:筋力低下が姿勢の悪化を招き、余分な疲労を生む
筋肉は使わなければ急速に衰えます。特にデスクワーク中に酷使される姿勢を支える「抗重力筋」(腸腰筋・脊柱起立筋・腹横筋など)は、座ってばかりいると弱化しやすい部位です。
筋力が低下すると正しい姿勢を維持するのが難しくなり、頭が前に出て肩が丸まる「猫背」や、腰が後ろに倒れる「骨盤後傾」が起きやすくなります。この不良姿勢の状態では、本来使わなくていい筋肉が常に緊張を強いられ、慢性的なコリや疲れとして現れます。
腰痛・肩こりと疲れやすさがセットで起きやすいのは、こうした姿勢崩壊と筋力低下の悪循環によるものです。「背中を伸ばそう」と意識しても、支えるべき筋肉が弱っていれば数分で元の姿勢に戻ってしまいます。
不良姿勢が続くと横隔膜が圧迫され、呼吸が浅くなります。呼吸が浅くなると取り込める酸素量が減り、体中の細胞がエネルギーを作るのが難しくなります。疲れが抜けない・頭が働かないという感覚は、こうした酸素不足とも関係している可能性があります。
メカニズム3:自律神経のリズムが乱れ、回復力が下がる
体は、活動時に交感神経が優位になり、休息時に副交感神経が優位になることで、ON/OFFのリズムを作っています。このリズムが正常に機能してこそ、睡眠中に疲労を回復し、翌朝スッキリ目覚められます。
在宅勤務では、起床から就業開始まで数メートルしか移動しないケースも珍しくありません。外出もなく、日中の光を浴びる機会も減ると、自律神経の切り替えが鈍くなります。適度な運動がないと交感神経を適切にONにする刺激が不足し、副交感神経への切り替えもスムーズにいかなくなります。
結果として「昼間眠い、夜眠れない」「いつもなんとなく疲れている」という慢性疲労状態が続きやすくなります。「ちゃんと眠れていない」という睡眠の質の低下は、翌日の疲れやすさをさらに悪化させる要因となり、負のスパイラルが続きます。
仕事と休息の空間・時間が分離しにくい在宅環境では、脳が「仕事モード」から抜けられないまま夜を迎えることが多く、自律神経の問題は特に起きやすいといえます。
今すぐできる対策:座りながらできる動き5選

「運動が必要」とわかっていても、仕事の合間にわざわざ運動着に着替えてトレーニングをするのは現実的ではありません。まず取り組みやすいのは、デスクに座ったまま・作業の合間にできる「小さな動き」です。積み重ねることで、1日の活動量を底上げできます。
座ったままできる「ながらストレッチ」3選
① かかと上げ(カーフレイズ)
椅子に座ったまま、両足のかかとをゆっくり持ち上げて5秒キープし、ゆっくり下ろします。これを10〜15回繰り返すだけで、ふくらはぎのポンプ機能が刺激されます。脚のむくみが気になる方や、長時間座った後に足がだるく感じる方に特に有効です。会議中・電話対応中など「手は使えないが体は動かせる」場面にも取り入れやすいため、習慣化しやすい動きです。
② 肩甲骨引き寄せ(肩甲骨エクサ)
両手を頭の後ろで組み、肩甲骨を中央に引き寄せながら胸を開くように肘を後ろへ引きます。5秒キープして戻す動作を5〜8回行います。猫背で固まった胸郭を広げ、肩こりの緩和にもつながります。「深呼吸がしやすくなった」と感じる方も多く、呼吸が深くなることで副交感神経への切り替えにも役立つ可能性があります。
③ 腰のひねり(チェアツイスト)
椅子に深く座り、上体を左右交互にゆっくりひねります。背もたれを片手でつかみながら行うと安定します。腸腰筋と腹斜筋を刺激し、骨盤の歪みを和らげます。長時間同じ姿勢で固まった腰まわりのリセットに有効で、各側10秒×3セットを目安に行ってみてください。
これら3つは合計で3〜5分もあれば一通りこなせます。「やりきった」という感覚が積み重なると、日中の活動感が変わってきます(個人差があります)。
1時間に1回「立ち上がる」だけでも変わる理由
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」(https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf)では、座位行動(座りっぱなしの状態)を長時間継続することのリスクが明示されており、「座りっぱなしの時間をできるだけ短くし、こまめに体を動かすことが重要」とされています。
推奨される目安は「30〜60分に1回は立ち上がること」です。立ち上がって少し歩くだけでも、筋肉への刺激・血流改善・姿勢リセットという3つの効果が同時に得られます。1回あたり2〜3分の移動や軽い動作でもカウントできます。
タイマーやスマートウォッチのリマインダーを活用して、強制的に「立つ習慣」を作ることが効果的です。「立ったついでに水を飲む・トイレに行く・窓を開けて外を見る」など、立ち上がってから何をするかをあらかじめ決めておくと、動作が自動化されやすくなります。
目・首・手首のリフレッシュ:見落としがちな疲れのポイント
運動不足対策というと脚や体幹に目が向きがちです。ただ、在宅勤務で特に疲れやすいのが「目・首・手首」の三か所です。ここを放置すると、体幹を動かしても全身の疲労感が取れないまま夕方を迎えることになります。
まず目の疲れには「20-20-20ルール」を試してみてください。20分に1回、20フィート(約6m)先を20秒間見るだけです。画面から目を離すことで毛様体筋の緊張がほぐれ、眼精疲労の蓄積を抑える効果が期待できます。
首の疲れには、耳を肩に近づけるように真横に側屈させる動作が有効です。左右各10秒×3回。顎を引いて頭を後ろに引く「顎引き動作」を10回加えると、前頭位が改善し、首後部の筋肉の緊張が和らぎます。
手首の疲れには、手のひらを上向き・下向きに交互に返す回内外運動を各10回行います。長時間のタイピングやマウス操作で疲弊した前腕・手首のケアになり、腱鞘炎の予防にもつながります。
これらは1〜2分で完了できます。ルーティンに組み込むことで、じわじわと積み重なる末端の疲れを予防できます。
習慣化しやすい運動の取り入れ方
運動不足を解消しようと突然ハードな運動を始めても、長続きしないことがほとんどです。意志力だけに頼るのではなく、「運動できる余白」を生活の設計として組み込むことが大切です。
「既存の行動にくっつける」習慣化の考え方
スタンフォード大学の行動デザイン研究者 BJ フォッグが提唱する「タイニー・ハビット(Tiny Habits)」の考え方では、新しい習慣は既存の行動の直後に紐付けることが最も定着しやすいとされています。「やる気が出たらやる」ではなく「〇〇したら必ずやる」という形にすることで、意志力に頼らず行動を自動化できます。
在宅勤務に応用すると、たとえばこのように組み込めます。
- コーヒーを入れるために席を立った → ついでにかかと上げ20回
- Zoom会議が終わったら → 肩甲骨エクサ1セット(10回)
- トイレから戻ったら → スクワット5回
- メールを送信し終わったら → 首の側屈ストレッチ左右1回ずつ
最初から全部やろうとする必要はありません。1つだけ選んで1週間続けることが、長期的な習慣化への第一歩です。「小さすぎる」と感じるくらいの設定が、脱落を防ぐうえで効果的です。
朝の「5分ルーティン」で1日の代謝をONにする
朝起きてすぐの5分間だけ、軽い動きを行うことで自律神経の交感神経スイッチを入れ、1日の代謝を活性化できます。「朝から運動する時間も体力もない」という方でも、5分だけなら試しやすいはずです。
おすすめの朝5分メニューは次の通りです。
このルーティンは激しくないため汗をかかず、着替え不要で始められます。「やりきった」という小さな達成感が自己効力感を育て、日中の運動継続意欲にもつながります。
在宅勤務で「起きてすぐパソコンを開く」という習慣がある方は、「まず5分動いてからパソコンを開く」というルールに書き換えるだけで、朝の体の重さが変わる可能性があります。
昼休みの「10分ウォーク」を固定スケジュールに入れる

外出の機会が減る在宅勤務において、昼休みの外歩きは「光・歩行・気分転換」を同時に得られる最もコスパの高い習慣です。
自然光を浴びることで体内時計がリセットされ、日中に交感神経が活性化します。夜に副交感神経への切り替えがスムーズになり、睡眠の質の改善にもつながる可能性があります。歩行によりふくらはぎのポンプが動き、午前中に滞りがちだった血流をリセットできます。
ポイントは「ランチを食べ終わったら必ず外に出る」と固定スケジュール化することです。距離や速度にこだわらず、「歩き始める」こと自体を目標にすると継続しやすくなります。10分歩くだけで往復20分の軽い運動になり、在宅勤務中の歩数確保に大きく貢献します。
歩数全般の減少が気になる方は、ぜひこちらも参考にしてみてください。関連記事「在宅勤務で歩く量が減った方への対策まとめ」では、日常の中で歩く機会を増やすための具体的なアイデアを網羅しています。
環境から変える:デスクグッズで動きを促す

意識して動こうとしても、仕事に集中するとつい忘れてしまいます。「意識しなくても自然に体が動く・姿勢が整う環境」を作ることが、長期的な運動不足解消には欠かせません。デスク周りのグッズを見直すことで、仕事しながら体への負担を減らし、自然に動きを促すことができます。
フットレストで脚の疲れとむくみを軽減する
椅子に座ったとき、足の裏が地面にきちんとついていないと、太もも裏が圧迫されて血流が悪化します。身長や椅子の高さによっては、足が浮いた状態になってしまうことも多く、そのまま数時間過ごすと脚のむくみや腰痛につながります。
フットレストを使うと、足の置き場所が安定し、自然な姿勢を保ちやすくなります。「揺れるタイプ」「傾斜調整できるタイプ」のフットレストであれば、足をのせながら無意識に動かせるため、座りながらの血流促進にも役立ちます。在宅勤務中に足のだるさ・むくみを感じやすい方に、最初に検討してほしいアイテムです。
フットレストの選び方・種類別の効果・おすすめ商品については、こちらの記事で詳しく解説しています。
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昇降デスクで「立って仕事」を取り入れる
在宅勤務の運動不足対策として、近年注目度が上がっているのが「スタンディングデスク(昇降デスク)」です。座位と立位を交互に切り替えながら仕事ができるため、長時間同じ姿勢で固まることを防ぎ、筋肉・血流・姿勢の三方面から運動不足を補います。
「立ったまま仕事するのは疲れそう」と感じる方も多いですが、実際には1〜2時間ごとに座位と切り替えることが推奨されており、ずっと立ち続ける必要はありません。切り替えの動作自体が「立つ・座る」という全身を使う動きになります。立位で仕事をすることで、脚の筋肉が活動状態になり、座りっぱなしのポンプ機能停止を根本的に防げます。
「導入したが使わなくなった」「思ったより場所を取る」という後悔の声もあるため、購入前には実際の使い勝手と設置スペースを十分に確認しておきましょう。
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よくある質問
Q1. 在宅勤務でどれくらい歩数が減っているのか、目安はありますか?
オフィス通勤時の平均歩数は1日6,000〜8,000歩程度とされていますが、在宅勤務になると1,000〜2,000歩台まで落ちるケースも報告されています。通勤・社内移動・外出ランチなどが丸ごとなくなるため、運動量が通勤時の1/3〜1/4以下になることも珍しくありません。まずはスマートフォンのヘルスケアアプリで自分の現在の歩数を確認してみることをおすすめします。現状を把握するだけで、対策への意識が変わります。
Q2. 座りっぱなしで疲れやすいのと、運動のしすぎで疲れるのは別物ですか?
はい、メカニズムが異なります。座りっぱなしによる疲れは「血流停滞・筋緊張・自律神経の乱れ」によって引き起こされる受動的な疲れです。一方、運動のしすぎによる疲れはエネルギー消耗・筋肉の損傷による能動的な疲れです。在宅勤務で感じる「なんとなくだるい・頭が重い」という疲れは前者であることが多く、適度な運動によって改善できる可能性があります。「疲れているから休む」だけではなく、「少し動いてみる」という発想の転換が有効な場面も多いです。
Q3. 運動不足の改善に特別な器具や広いスペースは必要ですか?
まったく必要ありません。この記事で紹介したかかと上げ・肩甲骨エクサ・チェアツイストはいずれも椅子1脚あれば実践できます。スペースが確保できる場合は、ヨガマット1枚分(約60×180cm)あれば、ストレッチ・スクワット・体幹トレーニングのほとんどをカバーできます。「器具が揃ってから始める」ではなく、「今座っている椅子でできること」から今日始めることが大切です。
Q4. 肩こりや腰痛がひどく、運動する気力がわきません。何から始めたらいいですか?
肩こりや腰痛がある場合、激しい運動はかえって逆効果になることがあります。まず取り組むべきは「姿勢の改善」と「深呼吸」です。骨盤を立てて座り直し、肩甲骨を一度後ろに引いて胸を開くだけで、筋肉の緊張が和らぎます。そのうえで肩こり対策グッズの活用も並行して検討してみてください。環境を変えることで、意識しなくても姿勢が整い、運動への余力が生まれやすくなります。
まとめ:在宅勤務でも疲れにくい体に変わる、今日からの3ステップ
在宅勤務で疲れやすくなる最大の原因は「知らず知らずの運動不足」です。通勤がなくなり、座りっぱなしの時間が増えることで、筋肉の衰え・血流の低下・自律神経の乱れが重なり、慢性的なだるさや集中力の低下を生み出します。
対策は段階的に取り組むのが効果的です。
まずステップ1として「座りながらできるストレッチ」で体を動かすことに慣れ、「1時間に1回立つ習慣」を定着させましょう。次にステップ2として余裕が出てきたら「昼の10分ウォーク」や「朝5分ルーティン」へと発展させてください。ステップ3では、フットレストや昇降デスクといったデスクグッズで環境自体を整えることで、意識しなくても自然に動ける体と場所が作られます。
「完璧にやろうとしないこと」が、続けるための最大のコツです。今日から一つだけ試してみてください。その小さな選択が、1か月後の体の軽さとして返ってきます。
参考資料
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf
- 厚生労働省 e-ヘルスネット https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/


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